新しい土蔵の扉


 ボクは少年の頃から日本美術が大好きで、ジジィになった今は、何と言っても土蔵が好きです。土蔵が、ある意味日本美術の真骨頂を体現しているように思えるからです。


 この度は、土蔵の「戸前」と2階の兜と扉をまるっきりゼロから作る仕事を与えられ、やる気満々の真っ最中なのですが、ちょっと仕事が「乾燥待ち」で途切れたので、ここまでの作業を報告してみようと思います。(自分の覚え書きですね。)

 担当する左官の親方は小沼充氏です。では、木村の役目は?と、皆さんに聞かれます。ボクの役割は、おおもとのデザインと大工さん・石屋さんや工務店仕事の職人さんへの図面指示と、現場監督ってぇところでしょうか?

 楽ちんやな?と、思いきや、「土蔵の戸前の新設」は、何十年もどなたも体験していないような仕事なのでした。戸前や扉の「修復」は、文化財をはじめとして、アチコチでおこなわれている事でしょうが、ゼロから作るのは、また違います。

 まず、肘と呼ばれるヒンジや鍵や引き手の「金物」が問題です。考えなければならないことが多かったのです。

 昔のものを流用すれば?という考えをまずは検討しましたが、京都や奈良の骨董店などで売っている昔の金物は、「高い!」のでした。同じくらいの金額なら新しく作った方が、今の制作者に仕事料を払えていいじゃないか。そして昔の知恵と今の知恵を戦わせて検討する方が面白いじゃないか。そう考えて、まるっきり新しく制作することにしたのです。

 そうはいっても、研究は必要なので、昔の金物を何回も見直して研究しました。そして、同じヒンジでも、明治・大正・昭和初期の間に随分進化していることに気づきまして、一番新しいモデルを軸に、金物の制作をお願いした杉田龍くんと協議に入りました。

 (こういうのが一番楽しいんですよ。)


 昭和初期までの土蔵建築にはボルト・ナットは、ほぼありません。ネジ・ビスの類もありません。しかし、考えた結果、今回は、ボルト・ナットやビスの使用を基軸にしました。文化財修復現場では、このようなことはないでしょう。


 さて、そのあとは、木製の兜や扉の木柄の制作に関しての問題です。木材と木材の結合をどのようにおこなうか?です。

 同じように昔ながらの工法を採ると、貫と釘ということになります。貫は、コミセンやクサビなど大変だけれど信頼性はあります。しかし釘は?また随分考え方が異なるわけです。昔の軟鉄鍛造による釘と今の丸い工業製品の釘では、まるっきり違います。

 大工さんたちの慣れと技量も考慮し、今回、木製の構造材の結合は、現代のやり方(ボルト・ナットやビスによる結合)を基本としました。


 しかし、全く!ね!左官作業に入る前にこんなに苦労するとは。詳しく書くのはやめますが、要するに、昔の職人と今の職人は、頭の中身が違うのです。


 さて、小沼親方が現場入りし、左官が始まると、一転してものすごいスピードになりました。あっという間に金物と木製の下地材は、巻き小舞と共に泥の中に埋まってしまったのです。

 



左は、割竹にシュロ縄を巻いている親方。巻き小舞作り、という工程です。










 

  右は巻き小舞を取り付けているところです。(インパクトとビスです)









 (左)

 巻き小舞の上に一回漆喰を塗ります。

特殊金物とビスは鉄製なので、このようにします。昔の人は、鉄の周りや薄塗りのところだけを漆喰塗りしたり、と、材料を惜しんで(大事にして)いました。


(下)

 追いかけで(漆喰が乾かないうちに)

 泥を分厚く塗ります。



 このように扉の木柄、実柱、兜桁全てに巻き小舞、漆喰、泥を施工していくのですが、ものすごく速かった!


 「文化財とかやってる連中が見たら卒倒するだろうね」とは、親方の弁。それに、もう一つの金物、「引き手(リング)」は、左右の真ん中につけたいから、後で泥と漆喰の真ん中に穴を開けてつける、というので、ボクもびっくり。とにかく、ここまでの工程を手早くやって、1回目の泥をたくさんつけて、泥の水分を受けた木材が反るなら反ってしまえ、と。その姿を基本として、今後の作業をしないとならない、という親方の考えは、理に適った賢い考えだと、恐れ入った次第です。


 最後は小沼親方の「土蔵セット」。道具箱は恩師・榎本新吉の形見なのでした。

 (写真には収めきれませんが、もう一段、面取りこてシリーズが隠れています)

 土蔵のどこが日本美術の真骨頂なのだ??と、、、、その答えは、今回は書きません。


 これからまた2ヶ月ほど続く左官の作業をご覧いただきながら、その事にも言及していきましょう。


 小沼親方も、今回の仕事には静かな闘志を燃やしているようで、毎日普段は朝5時に起きるはずなのに、3時に起きちゃって、もう寝られないのだそうです。思いっきり楽しんでいるんですね。






 

















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